ピケティ



ピケティのいう「資本主義の根本的矛盾」r>gは、経済学者に評判が悪い
なぜなら最近200年のうち100年が例外になっている法則が、法則といえるのだろうか。ここでrは資本収益率、gは成長率だが、ラムゼー的な最適成長理論では、図のようにrは資本減耗率dKに等しくなり、これはgに等しくなるので、r=gの状態で永遠の未来までの消費の積分が最大化される。これが黄金律である。
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ピケティもこれは知っており、「黄金律が実現するメカニズムは存在しない」と否定しているが、彼の「根本的矛盾」が生じるメカニズムも明確でない。しかしこれを次のように考えることはできないだろうか。

ソローの理論は「新古典派」と名づけられているが、貯蓄率が内生的に決まらないので新古典派的ではない。むしろ貯蓄=投資となる状態を長期的にみた長期ケインズ理論と考えたほうがいい。この状態で均衡すると、所得は最大化されない。

経済が定常状態に達すると成長が止まり、生産性(TFP)上昇率が成長率に等しくなる。このため先進国で21世紀の成長率は1.5%程度になるというのがピケティの予想だが、資本収益率が無限に上がることはありえないから、どこかでrもピークアウトするはずである

それは資本がそれ以上蓄積されても投資収益が増えない潜在成長率である。これはマクロ統計でいうと、GDPギャップがゼロの状態だが、ソローの定常状態に近く、ここで貯蓄率が調整されて資本/所得比率βが最適化されると黄金律に近づく。

つまりピケティのU字型カーブ(資本分配率が20世紀なかばに下がって後半に上がる)は、ソロー的な定常状態からラムゼー的な黄金律への移行と考えることはできるだろう。戦争で資本が破壊されてβが下がり、平等な定常状態が70年代に実現するが、ここでは黄金律に比べると資本が稀少なのでrが上がる。これによってβも上がり、収穫逓減でrが下がる。それがgに等しくなると黄金律が実現して、資本蓄積は止まる。

こういうメカニズムが働いているとすれば、20世紀後半の欧米の不平等化は発展途上国のキャッチアップと似た過渡的な状況で、最終的には黄金律に近づいて安定すると考えることもできる。ピケティも黄金律が実現する可能性は否定していないが、それは非常に資本集約的な水準(βが10以上)と考えている。これがもう少し現実に近い値(5~7)であれば、近いうちにピークアウトすることになる。

ソローモデルについての考察

 r (資本からのリターン)が g (経済成長率)よりも大きくなるのはどういうときか? という問題をソローモデルで検証する
 まず、通常ソローモデルにおいて想定されているように、生産は資本と労働を生産要素として行われると想定する生産関数は、
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 というかたちのものとする(これは「労働節約型」の生産関数で「ハロッド中立的」と呼ばれる、Y = AF(K,L) という「ヒックス中立的」の生産関数でも、以下の議論のインプリケーションは変わらない)。 Y:生産量, K:(社会全体の)資本, L:(労働)人口, A:知識(技術)です。

 効率労働1単位当たりで考えたほうが(知識+労働者1単位当たりの生産関数や資本で考える)、技術進歩や人口増減の問題を取扱いやすい、効率労働1単位当たりの資本を k とすると、k は
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(t) はそれぞれの変数が時間の関数であることを表している

 知識(技術)の増加率を a ( g と表記されることが多いが、ここでは経済成長率と区別するために a とした)、人口増加率を n とする
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を得る
 生産関数は収穫一定であると想定する、効率労働当たりの生産関数を f(k) とすると、
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が成り立つ
資本の増加率は次の式に従うと想定する
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 これは、貯蓄から資本消耗(δは資本消耗率)を引いたものが、資本の増加分になることを表している

 効率労働当たりの資本 k の変化を見たいので、k の時間微分を考える(以下、時間を表す t を省略する、時間によって変化する変数は、Y, K, L, A )。

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が従い
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を得る
これが効率労働当たりの資本 k の時間変化を表す式になる
つまり

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 均斉成長路では、k は sf(k) と(a+n+δ)k の交点になる。この状態で消費 c が最大になるのは、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と、f(k) の接線が平行になるとき、貯蓄率 s が調整され、この消費最大化の状態が達成される k の値は、「黄金律水準」と呼ばれる

 では、経済成長率(生産量成長率)はどのようになるのか、成長率を g とすると
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ここで
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は生産関数 f(k) の資本に対する弾力性( F(K,AL) の K に対する弾力性も同じ値になる)。これを αk とおけば(通常、αk=1/3 ぐらいと想定される)、成長率は
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となる

 均斉成長路では、k・ は 0 になる
したがって、均斉成長路の成長率はf:id:isoiso175:20150703003635p:image
この成長率の値は、均斉成長路にいるなら k が黄金律水準になっているかどうかにかかわらず、a+n 

 いっぽう、資本からのリターンを r とすると、r は
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 となる(これは利潤最大化の条件から求められる)。
 経済が均斉成長路上にいて、かつ黄金律水準が達成されているなら(つまり、貯蓄率 s が調整され消費が最大化されるように調整されるなら)、f(k) の接線が、平衡投資の直線 (a+n+δ)k と平行になる
したがって、
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であり
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が従う

ソローモデルでは、経済が長期均衡(=均斉成長路上で消費最大化が達成されている)にいるなら、 r = g になる
 しかし、経済が常に長期均衡にいることはなく
また、技術の進歩や人口増加率は変化する。また、経済が長期均衡に至るには時間がかかる(ソローモデルで考えると数十年の単位)。

 そこで、知識の増加率 (a) と人口増加率 (n) に変化が生じた場合を考える(このモデルでは、a と n の変化は同じ影響を与えるので、ここではまとめておく)。つまり、
① a と n が増加した場合
② a と n が減少した場合
の2つの場合がある
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 ① a+n が増加する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが大きくなり(赤い直線)。したがって、k は k* の位置から減少していく、しかし、k は動学方程式にしたがって変化し、そのため、すぐに B のレベル(あるいは E のレベル)にシフトしない、時間をかけてゆっくりと減少していく、消費を最大化する黄金律水準に k が調節されるとすると、k は B のレベルで均衡するのではなくて、少し大きな水準になる(E あたりの k )。

 反対に② a+n が減少する場合、平衡投資の直線 (a+n+δ)k の傾きが小さくなる(青い直線)。したがって、k は D の位置から時間をかけてゆっくり F の位置に移動する

 この場合、成長率 g はどうなるか?



① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n < a’+n’ )
 a+n が増加し、a’+n’ になった場合、右辺の第1項、第2項が a+n であるため、その分成長率は増加する、(ジャンプアップする)。そして、a+n が増加すると、平衡投資の直線 (a+n+δ)k が左にシフトする、したがって、第3項はマイナスになり(資本 k はゆっくりとしか移動できず、sf(k) が (a+n+δ)k よりも下にくるため)。第3項はマイナスになるが右辺が a+n よりも小さくなることは、資本消耗率 δ がかなり大きくならない限り、ありえない(αk= 1/3 ぐらいであることに注意)。そのため、a+n の増加が起こった時、g は a+n と a’+n’ の間のどこかのレベルまでジャンプアップすることになる。
 そして、k が左にシフトしていくにしたがって、第3項は、マイナスから 0 に増加していき。そのため g は増加し、a’+n’ に近づいていけ(以下の図では、t = t0 で変化が起こると想定している)。
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② a+n が減少し、a’+n’になった場合(a+n>a’+n’)
 a+n が減少し、a’+n’ になったとすると、その分成長率は減少する(下の図のように、瞬時的に下がる)。そして、a+n が減少すると、平衡投資の直線 (a+n+δ)k が右にシフトする
したがって、第3項はプラスになる( sf(k) が (a+n+δ)k よりも上になるため)。この場合も、第3項はプラスになり右辺が a+n よりも大きくなることは起こらない。そして、k が右にシフトしていくにしたがって、第3項はプラスから 0 に減少していき、そのため g は減少を続け、a’+n’ に近づいていく
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では、資本からのリターン r はどうなるか

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 で、a+n が増加し、k が D から E へ左に移動すれば、f(k) の接線の傾きは大きくなる、したがって r は増加する反対に a+n が減少し、k が D から F へ右に移動すれば、f(k) の接線の傾きは小さくなるとわかるしたがって r は減少する

 この増減は k の移動にともなっているのでg の変化のような不連続のものではなく、少しづつ変化するものとなる
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 となり。f”(k) は k の値によらずマイナス

① a+n が増加し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
 r の変化の場合は、最初に黄金律水準が達成されていて(そのため r = a+n になる)、変化の後、再び黄金律水準が時間をかけて達成される(そのため r = a’+n’ になる)
 a+n が増加すると、平衡投資の直線が左にシフトするからsf(k)-(a+n+δ)k はマイナス、f”(k) の値はマイナス。したがって、式の値はプラスになるそして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、式の値はしだいに 0 に近づいていく、つまり、最初に大きく増加し、次第に増加率が小さくなっていくr は次のような変化になる
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② a+n が減少し、a’+n’ になった場合( a+n<a’+n’ )
 図3から、平衡投資の直線が右にシフトするので、sf(k)-(a+n+δ)k はプラス、f”(k) の値はマイナス。したがって、式の値はマイナスそして、均斉成長路では sf(k)-(a+n+δ)k が 0 になるので、式の値はしだいにマイナスから 0 に近づいていく、最初に大きく減少し、その減少率が少なくなっていく。r は次のような変化になる
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つまり
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成長率 g には a+g の項があります。したがって、a+g が変化すると、その影響を直接受ける(その時点でジャンプする)。しかし、資本からのリターン r は、資本 k のレベルにしたがってゆっくり変化するだけ。a+n が変化すると、先に g が大きく変化し、r の変化は遅れる

 具体的に言えば、知識の蓄積や技術開発が進み、人口増加率が増加すると、成長率はすぐに増加する、しかし、資本からのリターンは、よりゆっくりと増加していく。そのため、g>r という状態が続く、ソローモデルにしたがえば、均斉成長路(長期均衡)に至るには数十年かかる技術進歩が連続し、人口が増加し続けていれば、g>r という状態がずっと続くことになる

 逆に、知識や技術進歩の低下が起こったり、あるいは人口増加率が減少すると、成長率はすぐ低下する、しかし、資本からのリターンはよりゆっくりとしか減少しない、そのため、r>g という状態が続くことになる

 20世紀には、電力化、IT革命など大きな技術進歩が連続して起こり、また、人口も増加しました。ソローモデルから解釈すれば、そのため g>r という状態が続いたと考えられる
 しかし、21世紀に入る前後から、コンピューター化やコンピューターを応用した技術が進んでいるとはいえ、かつての技術革新のようなインパクトのある大きな技術革新が起きなくなっていると言える。また、人口増加率も停滞しているソローモデルにしたがえば、そのためにr>g になったと考えられる

機会があれば生産関数を具体的に定義しよう